私の建築人生は、もともとアカデミックな場から始まりました。大学卒業後に8年間、大学講師をやっていたのですが、閉じられた空間で教鞭を取るかたわら、現場での仕事を学びたいと思うようになり、大連工業団地管理有限公司の工事部に入りました。私に課せられた業務は、大連の開発区における施工の管理でした。約5年間の勤務を通して多くを学びましたが、施工と、その後のメンテナンスだけの業務に限界を感じ、建設業務全体を幅広く経験したいという想いが強くなりました。そこで、当時の人生のメンターでもあった日本人の方に相談したところ、思い切って建築会社を起業してみてはどうかと提案されたのです。私にとっては想定外の刺激的なアドバイスでしたが、正直、非常に悩みました。今、会社を立ち上げるタイミングなのかどうか、と
他のあらゆるビジネスと同じように、建築ビジネスも、最終的にお客様が満足してくれるかどうかがすべてです。
そう考えると、私は、大きな建築業界において、お客様へ最高に満足していただける品質を作り上げられることができるのか?という大きな不安がありました。どうせやるなら世界を満足させたい、世界に通用する品質を提供したい、そうした志を抱きつつも、自分の経験に自信が持てませんでした。折りしも当時は中国が世界の工場として大きく「稼働」しており、日本を始め、世界中の大企業がこぞって中国での工場建設に進出していた時期。まさに中国が世界を満足させるための場所となっていたのです。
私は決心しました。日本の建築を学ぼう、と。建築畑にずっと身を置いてきた立場として、日本が世界に誇る建築技術、センス、そして品質を身につけたいと常々思っていました。日本レベルの品質を学ぶことができれば、この中国で、日本に、そして世界に満足していただくことができるのではないか。その想いを胸に、日本のゼネコン会社の工場施工現場でメンテナンスを担当する仕事に就いたのです。
頭では理解していたつもりでも、日本建築に現場で接してみると、驚きの連続でした。
徹底した工程管理、お客様との密で丁寧なコミュニケーション、そして何よりも施工レベルの高さ。すべてが中国の建設会社のサービスとはかけ離れていました。
建築の品質は、竣工から年数が経てば経つほど如実に現れてきます。中国の建設会社が施工した工場は、頻繁にメンテナンスが必要でしたが、日系ゼネコンが施工した工場は、10年経っても同じ品質を保っています。ある時、竣工から10年が経過した工場をメンテナンスした際、壁を取って中の配管を見たときに驚きました。まっすぐに、一寸の狂いもなく美しく配置されたパイプや内部機器。10年間変わらぬ品質の理由を目の前にし、私は、日本の品質ここにありき、と確信しました。
見えないところまで、ウソをつかず、正直に、丁寧に作り切る。それがお客様の満足を生むのです。これだ、この品質を目指そうと思いました。
日本の施工品質に感銘を受け、目標とした私は、1998年に大連カイザーを創立しました。
企業理念は、「良心品質=良心が品質をつくる」。どこまでも誠実に、どこまでも丁寧につくりきる、その「良心」が最終的な品質を生み、お客様を満足させることができるのだ、という想いからです。
カイザー創立当時は、施工会社として日系ゼネコンからの仕事を担当していましたが、全社一丸となり、「良心品質」をモットーに業務を開拓し、経験を重ねてきました。その結果、設計、施工、監理、コンサルタント、入札代理の全資格・免許を取得し、 一括請負のゼネコンとして成長することができました。
お客様も、日本の企業様を始め、ヨーロッパ各国の企業様など、よりグローバルに広がり、これまでに建設した工場は500件を超えるまでになりました。
また、私は現在、大学院の博士課程にて建築の研究を行っています。我ながら、本当に建築が好きなんだなと半ば呆れつつも、よりよい建築をつくるために情熱を燃やしています。
これからも、引き続き建築業界で、 お客様により満足いただくために、 絶えず新しいものを取り入れ、斬新で時代を反映した優れた建築を世に送り出していこうと、そう思っています。
王 凱